訪問看護師の1日|8:30から17:30まで、実際の時間割を追う
- 管理者

- 4 日前
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「何時に始まって、何時に終わるのか」が見えない
訪問看護に興味を持ったとき、多くの方が最初に知りたいのは、理念でも制度でもありません。
「実際、何時に出勤して、何時に帰れるのか」
病棟なら想像がつきます。日勤は8:30から17:15、夜勤は16:30から翌9:30。しかし訪問看護は、その輪郭がぼやけています。「直行直帰らしい」「オンコールがあるらしい」——断片的な情報だけが漂っている。
だから、ここでは一切の脚色をせず、当ステーションの看護師の一日を、時刻とともに追います。
まず、時間割はこうなっています
当ステーションの勤務時間は 8:30〜17:30 です。
訪問の開始時刻は、あらかじめ枠として決まっています。
枠 | 開始時刻 |
1件目 | 9:00 |
2件目 | 10:30 |
3件目 | 13:00 |
4件目 | 14:30 |
5件目 | 16:00 |
この「枠が決まっている」ことが、実はとても重要です。
訪問看護の残業は、たいてい「予定が押していく」ことから生まれます。1件目が延びて、2件目が遅れて、最後は19時——という崩れ方です。
枠を固定し、1件あたり60分+移動30分という余裕を持った設計にしておくことで、この崩壊を防ぎます。緊急訪問が入っても、枠と枠の間に吸収できる余白があります。
そして、**訪問と訪問の間の「移動30分」は、記録を書く時間でもあります。**ここが定時退勤の分岐点です。
8:30|出勤
ステーションに出勤します。まずやることは3つ。
電子カルテ(Kaipoke)で当日のスケジュールを確認
前日の他スタッフの記録に目を通す
Chatworkの未読を確認
この「他スタッフの記録を読む」が地味に重要です。自分が担当していない利用者さんでも、状態変化があれば必ず情報が入ります。
「Cさん、昨日から38.2℃。往診依頼済み」 「Dさん宅、玄関の鍵が変わりました。キーボックスの番号は◯◯◯◯」
こうした申し送りが、朝の数分で共有されます。
事務所に集まれる日は、患者相談の時間
当ステーションでは、事務所に集まれるスタッフで、その日の利用者について相談する時間を朝に設けています。
議題は多くありません。
状態が不安定な利用者の情報共有
「この方、どう思います?」という率直な相談
訪問順の調整(「午前に緊急訪問が入ったので、Eさんを午後に回します」)
その日のオンコール担当者の確認
看護師とセラピストが同じ場にいるので、この場で職種をまたいだ相談が飛びます。
看護師「Fさんの下腿浮腫が増えてるんですが、リハビリで座位時間を延ばした影響もありますか?」 PT「先週から座る時間を30分伸ばしました。心不全の増悪と廃用、両方見たほうがいいかもしれません」
こういう会話が、朝の10分で成立します。
事務所に来られない日は、直行直帰でかまいません
毎朝、必ず事務所に集合しなければならない、というルールではありません。
自宅から最初の訪問先が近い日
早い時間から訪問が入っている日
子どもの送りがある日
こうした場合は、直行してかまいません。帰りも同様に直帰が可能です。
「事務所に寄るためだけに、逆方向に30分走る」——これは誰の得にもなりません。
では直行の日、情報共有はどうするのか。
ここでChatworkとKaipokeが機能します。朝の相談内容は、必要な部分がChatworkに残ります。移動中に確認し、疑問があればその場で投げれば返事が来ます。
「集まれる日は集まる。集まれない日はつながる。」これが当ステーションの運用です。
9:00|1件目|Fさん(82歳・心不全)
社用車、または電動自転車で移動します。訪問時間は原則60分(介護保険の訪問看護Ⅰ4=30分以上60分未満、または医療保険での訪問)。
Fさん宅での60分の内訳(実際のイメージ):
時間 | 内容 |
最初の5分 | 挨拶・体調確認・「昨日から何か変わったことは?」 |
10分 | バイタル測定(血圧・脈拍・SpO₂・体温・体重) |
15分 | 全身観察(浮腫、呼吸音、頸静脈怒張、皮膚) |
10分 | 服薬確認(薬箱を開けて、実際に数える) |
10分 | 清拭・足浴・爪切り |
5分 | 家族への説明 |
5分 | 記録・次回訪問の確認 |
心不全のFさんの場合、体重が最重要指標です。3日で2kg増えていれば、それは体液貯留のサイン。「なんとなく苦しい」より、数字のほうが早く教えてくれます。
この日、体重は前回比+1.4kg。下腿浮腫も悪化。看護師はその場でMCS(メディカルケアステーション)を開き、主治医に報告します。
「Fさん、体重3日で+1.4kg、下腿浮腫Grade2、SpO₂ 93%(前回96%)。労作時呼吸苦あり。利尿剤の調整をご検討いただけますか」
写真も添付。主治医からの返信は、次の訪問中に届きました。
この「その場で医師とつながる」感覚は、訪問看護をやってみて初めて分かる部分です。訪問先では一人ですが、通信のむこうには常にチームがいます。
10:00〜10:30|移動・記録
次の訪問先まで移動します。ここで、Fさんの記録を完了させます。
「事務所に戻ってからまとめて書く」は、一見効率的に見えて、実は最悪の選択です。5件分を思い出しながら書くと、1件15分×5件=75分の残業が確定します。
訪問直後、駐車したままの車内で、タブレットで10分。記憶が新しいうちに書いたほうが、速く、正確です。
枠と枠の間に30分あるのは、このためです。
10:30|2件目|Gさん(68歳・ALS、人工呼吸器)
医療依存度の高い利用者さんです。医療保険での訪問(週3回。特別訪問看護指示書の期間中は毎日訪問も可能)。
やることは明確です。
人工呼吸器の設定値確認(換気量・回路の破損・加温加湿器の水位)
気管カニューレ周囲の皮膚状態
吸引(気管内・口腔内)
経管栄養の注入と胃ろう周囲のチェック
関節可動域の確認(拘縮予防)
文字盤・視線入力によるコミュニケーション
ここで大切なのは、「医療処置をする人」で終わらないことです。
Gさんは視線入力装置で意思疎通ができます。この日、Gさんが打った言葉は「ハナビ ミタイ」でした。
看護師は、その場で答えを出せません。しかし記録に残し、Chatworkに投げます。
「Gさん、花火が見たいとのこと。8月の花火大会、ベランダから見える可能性あり。人工呼吸器の外部バッテリー稼働時間、家族と要相談。OTさんに移乗方法を相談したいです」
この一文が、後日サービス担当者会議の議題になります。
11:30〜13:00|記録・昼休憩
2件目を終えたら、記録を書き、昼休憩に入ります。
事務所に戻る人もいれば、次の訪問先の近くで休憩を取る人もいます。直行直帰が認められている以上、昼も同様です。
正直に言えば、訪問看護師の昼食は、決して優雅ではありません。コンビニのおにぎりを車内で、という日もあります。
ただし、**休憩は法定通り取得します。**詰め込みすぎたスケジュールで昼休憩が消えるのは、看護師の問題ではなく、管理側の設計ミスです。
当ステーションが訪問枠を1日5件までに設計しているのは、この時間を守るためです。
13:00|3件目|Hさん(75歳・糖尿病、独居)
独居の方への訪問は、看護そのもの以上に**「生活の異変を見つける」**役割が大きくなります。
冷蔵庫の中身(賞味期限切れが増えていないか)
ゴミ袋(何を食べているかが分かる)
部屋の温度(エアコンを使っているか)
郵便物(未開封の督促状が溜まっていないか)
Hさんの冷蔵庫には、菓子パンが大量にありました。血糖値も上昇傾向。
看護師は説教しません。まず聞きます。
「最近、お買い物どうされてます?」
すると、**「膝が痛くてスーパーまで行けない。近くのコンビニで買える物しかない」**という背景が出てきました。
これは看護の問題ではなく、生活の問題です。
看護師はケアマネジャーに連絡し、買い物支援のヘルパー導入を提案。同時にPTへ「膝の疼痛と歩行距離の評価をお願いしたい」と依頼しました。
「血糖が高い」を「食事指導」で終わらせない。これが訪問看護のアセスメントです。
14:30|4件目|Iさん(89歳・看取り期)
余命は月単位、と主治医から告げられている方です。訪問看護指示書には「終末期ケア」の記載があります。
この訪問では、血圧を測らない日もあります。
やることは、
疼痛の評価(表情、呼吸パターン、体動)
口腔ケア(味を感じられなくても、口の中が乾くのはつらい)
体位変換とポジショニング
家族への声かけ
Iさんの娘さんは、この日こう言いました。
「昨日、あまり食べなくて。私が無理に食べさせようとしたのが、良くなかったんでしょうか」
看護師は、こう返しました。
「無理に食べさせなかったのは、正しい判断だったと思います。今、お母さんの体は、食べ物を消化する力を使うより、他のことに使いたい時期に入っています」
看取り期の訪問看護は、患者さんだけでなく、遺される家族へのケアでもあります。
「あのとき自分は間違っていなかった」——そう思えるかどうかが、家族のその後を左右します。
16:00|5件目
この枠は、日によって入る日と入らない日があります。
新規利用者の初回訪問
状態が不安定な方の再訪問
緊急訪問
そして、この枠が空いている日は、事務作業に充てます。
「毎日必ず5件」ではありません。枠は5つありますが、埋めきることが目的ではありません。
17:30|退勤
事務所に戻る場合も、直帰の場合もあります。
内容 | いつやるか |
訪問記録 | 訪問直後、その場で |
訪問看護計画書・報告書 | 月末に集中(枠の空き時間・帰所後) |
カンファレンス | 週1回、全職種で |
レセプト業務 | 月初(事務職員と分担) |
月初はレセプト、月末は報告書作成が集中します。ここは正直、繁忙です。ただしこれは事務職員と分担する部分であり、看護師が全部を抱えるわけではありません。
「で、残業は?」
最も知りたい問いに、答えます。
当ステーションの目標は「原則、定時退勤」です。
これは理想論ではなく、設計の問題です。
訪問枠を9:00 / 10:30 / 13:00 / 14:30 / 16:00に固定する(詰め込まない)
枠と枠の間に30分の余白を置く(記録・移動・緊急対応の吸収)
記録は訪問直後、その場で完了させる
直行直帰を認め、無駄な移動をさせない
事務作業を事務職員と分担する
残業が常態化するステーションは、この設計ができていません。
訪問看護の残業は、根性ではなく仕組みで減らします。
もちろん、緊急訪問が入ればずれ込みます。看取りが重なれば、定時では終わりません。それは事実です。しかし**「常に20時まで残っている」という働き方は、私たちは目指していません。**
オンコールについては、別記事で
「じゃあ夜はどうなの?」——これが次に来る問いだと分かっています。
オンコールは、訪問看護における最大の不安要素です。だからこそ、ごまかさずに別の記事で正面から書きました。**「実際、夜に何回鳴るのか」**を、構造から説明しています。
まとめ|訪問看護の1日とは
8:30出勤、17:30退勤
訪問枠は9:00 / 10:30 / 13:00 / 14:30 / 16:00の5つ(埋めきるのが目的ではない)
1件60分、枠と枠の間に30分の余白
記録は訪問直後、その場で完結させる
事務所に集まれる日は患者相談。集まれない日は直行直帰でよい
一人で訪問するが、一人で判断はしない(MCS・Chatworkで常時つながっている)
そして最も大切なこと。
訪問看護師の1日は、「処置をこなす1日」ではありません。「その人の暮らしを見に行く1日」です。
冷蔵庫の中身から。薬箱の残数から。家族の表情から。
病院では絶対に見えないものが、そこにはあります。
それを面白いと思えたなら、あなたは訪問看護に向いています。
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