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「一人で抱えない」訪問看護のリアル ― 多職種連携でどう患者さんを支えるのか


「訪問看護は一人で判断するから怖い」という誤解

訪問看護に興味はあるけれど、一歩踏み出せない。その理由として最も多いのが「一人で家に行って、一人で判断しないといけないのが怖い」という不安です。

病棟なら、ナースコールを押せば先輩がいる。迷えばリーダーに相談できる。その安心感が、訪問看護にはないのではないか——。

結論から言えば、訪問看護は「一人で判断する仕事」ではありません。むしろ、病棟よりも多くの職種と密に連携しながら働く仕事です。訪問先では一人ですが、その背後には看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、主治医、ケアマネジャー、薬剤師、ヘルパー、そして事務職員という、想像以上に厚いチームがあります。

この記事では、実際の事例をもとに「訪問看護における多職種連携の実際」をお伝えします。

事例|脳梗塞後、退院してきた78歳・Aさんのケース

背景

  • 78歳男性、左被殻出血後の右片麻痺

  • 回復期リハ病棟から3か月で自宅退院

  • 妻(75歳)と二人暮らし。娘は県外

  • 要介護3、高血圧・糖尿病の既往あり

  • 「トイレは自分で行きたい」が本人の強い希望

  • 退院前カンファレンスの時点で、妻は「本当に家で看られるのか」と涙ぐんでいた

このケースに、訪問看護ステーションからは看護師・PT・OTが入りました。介護保険での訪問看護(週2回)+訪問リハビリ(週2回)という構成です。

それぞれの職種が「何を見て、何をしたか」

看護師が見たもの:全身状態と再発予防

初回訪問で看護師がまず確認したのは、以下でした。

観察項目

具体的に見たこと

バイタル

血圧の日内変動、朝の起立時血圧

服薬

降圧薬・抗血小板薬の残数、飲み忘れの有無

血糖

自己血糖測定の実施状況、低血糖症状の有無

皮膚

麻痺側の踵、仙骨部の発赤

家族

妻の睡眠・食事・表情

ここで看護師が発見したのが、**「薬が余っている」**という事実でした。

Aさんは退院時、6種類の薬を処方されていました。しかし訪問してみると、降圧薬だけが妙に余っている。妻に聞くと「血圧が低い日は飲ませないほうがいいと思って」と。

これは訪問しないと絶対に分からない情報です。病院の外来で「お薬飲めてますか?」と聞けば「はい」と答えるでしょう。しかし薬箱を実際に開けて数えるのは、生活の場に入る訪問看護師だけです。

看護師はすぐにMCS(医療介護連携システム)で主治医に報告。主治医から「自己判断での中止は危険。血圧が◯◯以下なら連絡を」という具体的指示が返り、看護師は妻に対して、なぜ飲み続ける必要があるのかを、Aさんの再発リスクという言葉で説明し直しました。

理学療法士(PT)が見たもの:動作と環境

PTが着目したのは、「トイレに自分で行きたい」という本人の希望を、どうすれば安全に叶えられるかでした。

病院のリハ室では、平行棒があり、床は平らで、セラピストが横についていました。しかし自宅は違います。

PTが実際に測ったもの:

  • 寝室からトイレまで7.2m、途中に3cmの段差が2か所

  • 廊下幅78cm(介助者が横に並べない)

  • トイレのドアが内開き(転倒時に開けられない)

  • 便座の高さ38cm(Aさんの立ち上がりには低すぎる)

PTは、この「7.2m」を歩けるようにするための下肢筋力訓練とバランス訓練を組み立てると同時に、ケアマネジャーに住宅改修と福祉用具を提案しました。

  • 廊下に横手すり設置(住宅改修費で対応)

  • トイレに縦手すり設置

  • 補高便座の導入(特定福祉用具購入)

  • 段差解消のためのミニスロープ(福祉用具貸与)

ここが重要な点です。PTの仕事は「筋力をつけること」だけではありません。「本人の能力」と「環境」の差を埋めるのが仕事です。筋力が5あって環境が10を要求するなら、環境を5に近づける。これができるのは、実際に自宅を見ているPTだけです。

作業療法士(OT)が見たもの:生活と役割

OTが最初にしたのは、Aさんに**「これまでの一日を教えてください」**と聞くことでした。

分かったこと:

  • 元は畑仕事が趣味。裏庭に小さな畑がある

  • 毎朝、新聞を読むのが日課だった(今は右手が使えず新聞をめくれない)

  • 妻が全部やってくれるので、家の中でやることがない

  • 「もう役立たずだ」と本人が漏らしていた

OTのアプローチは、動作訓練にとどまりませんでした。

  1. 利き手交換訓練(右麻痺のため、左手での箸操作・書字)

  2. 片手での新聞のめくり方の工夫(滑り止めマットの活用)

  3. プランター栽培の導入(畑には出られなくても、縁側でトマトなら育てられる)

  4. 「妻の役に立つ仕事」を作る(洗濯物をたたむ/米を研ぐ)

3か月後、Aさんは縁側でミニトマトを育て始めました。妻は「あの人が『水やり忘れるなよ』って言うようになって、それが一番嬉しい」と話しました。

これがOTの専門性です。「できるようになる」だけでなく、「する意味がある」を取り戻す。ADL(日常生活動作)の向こう側にあるIADL・役割・生きがいまで踏み込むのがOTの領域です。

職種はどこで、どう情報を共有しているのか

「連携が大事」とはよく言われますが、実際にはどうやっているのか。ここが最も知りたいところだと思います。

① ICTツールによる日常的な共有

当ステーションでは以下を使用しています。

ツール

用途

電子カルテ(Kaipoke)

訪問記録・計画書・報告書の共有。訪問直後にその場で記録

MCS(メディカルケアステーション)

主治医・ケアマネ・薬剤師など事業所をまたぐ連携。写真添付可

Chatwork

ステーション内の即時相談。「これ、どう思います?」がすぐ飛ぶ

Aさんのケースで実際に飛んだやり取り:

PT → 看護師(Chatwork)「今日、歩行時に軽度ふらつきあり。血圧測ったら98/54でした。朝の降圧薬の影響かも。看護師さん次の訪問で確認お願いします」
看護師 → 主治医(MCS)「PTから起立時のふらつきと血圧低下の報告あり。降圧薬の減量をご検討いただけますか」
OT → ケアマネ(MCS)「Aさん、プランター栽培を始めました。妻の介護負担軽減にもつながっています。次回のサービス担当者会議で共有します」

PTが見つけた異変を、看護師が医療につなぐ。 これが訪問看護ステーションで、看護師とリハビリ職が同じ屋根の下にいることの意味です。

② サービス担当者会議

ケアマネジャーが招集し、関わる全事業所が集まります。ここには訪問看護(看護師・リハ職)、ヘルパー、福祉用具業者、時に主治医も参加します。

Aさんの会議で決まったこと:

  • トイレ動作が自立に近づいたため、日中のヘルパー訪問を1回減らす

  • その分を、妻のレスパイト(デイサービス利用)に振り替える

  • 訪問看護の血糖チェックを週2→週1へ

「良くなったからサービスを減らす」という判断は、多職種の目が揃って初めて安全にできます。

③ ステーション内カンファレンス

週1回、看護師・PT・OT全員が集まります。ここで議論されるのは「困っている利用者」だけではありません。

  • 「Bさんの浮腫、心不全の増悪じゃないか」(看護師の視点)

  • 「でも最近、座位時間が伸びてます。廃用性の可能性も」(PTの視点)

  • 「食事量が落ちてるので低栄養も考えられます」(OTの視点)

同じ現象を、3つの専門性が別の角度から見る。これが「一人で判断しない」ということの実態です。

未経験でも訪問看護に挑戦できる理由

理由1:判断は「その場で一人」ではない

訪問先で迷ったら、その場でChatworkに投げれば返事が来ます。電話もできます。「持ち帰って相談する」という選択肢も常にあります。即断即決を求められる場面は、実は病棟のほうが多いとすら言えます。

急変時は救急要請。これは病棟と同じです。訪問看護師に求められるのは「一人で全部解決する力」ではなく、**「これはヤバい、と気づく力」と「適切な人につなぐ力」**です。

理由2:同行訪問期間がある

当ステーションでは、未経験入職者には十分な同行期間を設けています。「一人で行ってきて」といきなり放り出すことはありません。

理由3:リハビリ職が隣にいる

看護師にとって、PT・OTが同じ事業所にいることは大きな武器です。

  • 「この方、ベッドから起こしていいですか?」

  • 「この座り方、褥瘡リスクありますか?」

  • 「福祉用具、何が合うと思います?」

こうした質問に、隣の席で即答が返ってくる環境。これは病棟ではなかなか得られないものです。逆にPT・OTは、「このバイタル、リハやっていいの?」を看護師に即座に確認できます。

理由4:あなたの病棟経験は、必ず活きる

  • 急性期経験 → フィジカルアセスメント、急変予測

  • 回復期経験 → リハビリ視点、ADL評価

  • 慢性期・療養病棟経験 → 看取り、家族支援

  • 手術室・外来経験 → 「未経験」と思っているかもしれませんが、清潔操作や患者説明のスキルは在宅でも中核です


訪問看護に「使えない経験」はありません。

それでも訪問看護は「難しい」のか

正直に言えば、簡単ではありません。病院と違い、そこは「利用者さんの家」です。医療者の常識が通じない場面もあります。

「毎日入浴すべき」——でも本人が嫌がるなら。「塩分は控えるべき」——でも90歳の楽しみが漬物なら。


正解が一つではない世界です。だからこそ、複数の目が必要になります。看護師の医学的判断、PTの動作分析、OTの生活視点。それらが噛み合ったとき、その人にとっての最適解が見えてきます。

Aさんの妻は、訪問開始から半年後にこう言いました。

「最初は、あの人を家で看るなんて無理だと思った。でも今は、みんなが来てくれるから。一人じゃないから、なんとかなってる」

「一人じゃない」のは、利用者さんも、私たちも同じです。


最後に

訪問看護に必要なのは、完璧な知識でも、超人的な判断力でもありません。

必要なのは、その人の暮らしをまるごと見ようとする姿勢と、分からないことを分からないと言える素直さ、そしてチームを頼る力です。

未経験だから、と諦める必要はありません。私たちも、最初はみんな未経験でした。

一緒に、「いつもの日常をいつもいつまでも」支える仕事をしませんか。



アカラケア訪問看護ステーション(鎌倉/小田原)では、看護師・理学療法士・作業療法士を募集しています。見学・カジュアル面談も随時受け付けています。


 
 
 

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